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ミカン農家が2,000万円稼げるで話題|構造を理解しておこう

ミカン農家が2,000万円稼げるで話題|構造を理解しておこう

どうも、凡サラです。

Xでこのポストがめちゃくちゃバズっていた。

しかも、生まれ育った福岡で話題になってたようだ。

「年収2千万円もざら」生まれ故郷でもある福岡県のミカン農家を取り上げた記事が、週末ずっとタイムラインに流れていた。

地元の若者に「一番なりたくない職業」と言われたミカン農家に、いま若い人が集まっているという。

毎月決まった額が振り込まれる生活をしている身としては、素直に「え、そんなに」と思った。

結論を先に言うと、この記事は嘘ではない。でも、自分の給与明細と並べて読むと、まったく別の種類の数字を見ていることになる。順番に説明します。

 

本当に2000万円も稼げるん?

ちょっと注目したいのは、「2,000万」と「2,000万の年収」という文脈については、本人というよりは、それを取引しているJA関係者のコメントみたいです。

なので、そこら辺の真偽が定かじゃなかったので、注意はしたほうがいいですね。

SNSで一番多かった反応は「それ年商(売上)の話じゃないの?」である。これはとても健全な疑いなので、まずそこから。

ラーメン屋を想像してください。一年間でお客さんから受け取ったお金の合計が「売上」。そこから麺や豚肉の仕入れ代、ガス代、家賃、バイトの給料を払って、最後に店主の手元に残るのが「利益」です。

農業もまったく同じ構造で、お客さん(市場やJA)から受け取った総額を農業粗収益、そこから肥料・農薬・燃料・機械代などを引いて残った額を農業所得と呼びます。会社員の「年収」に近いのは、後者ですね。

 

「年収」と「農業所得」は別物

よくよく調べてみると、農水省の令和6年の統計だと、全国の農家の平均は、売上1369.9万円、経費1201.3万円、残り168.6万円。

この「168万円」だけが切り取られて「農家は食えない」と言われるのですが、ここには年金をもらいながら家庭菜園に毛が生えた規模でやっている人まで全部入っています。

そこで、農業を家計の柱にしている人(統計では「主業経営体」と呼びます)に絞ると、売上2347.9万円、経費1853.7万円、残り494.2万円。会社員の平均年収(令和7年分で487万円)とほぼ同じになります。

つまり同じ統計から「平均169万円」と「会社員並み」の両方が出てくる。どこを切り取るかの問題でしかない、ということです。

果樹で所得2000万は、売上4600万の世界

では2000万はどうか。ここで役に立つのが、きちんと帳簿をつけている農家16,590人分のデータを分析した統計です。

それによると、ミカンなどの果樹で手元に2000万〜3000万円残っている農家の売上は、平均4600万円みたい。意外に結構稼いでる。

逆算すると、売上の4割強が手元に残っている計算になります。

果樹は、この「残る割合」が農業の中でもかなり高い部類です(同じくらいの規模の酪農だと、売上の17%しか残らない)

牛のエサ代のような巨額の仕入れが、ミカンには要らないからです。

ただし、ここに大きな但し書きが二つあります。

ひとつめ

この「2000万」は家族全員分です。統計上の数字は、経営者の取り分に家族従業員の給料を足した世帯合計で、同じくらいの規模だと家族2〜3人が働いています。会社員が「年収2000万」と聞いて思い浮かべる、一人の人間の給与明細とは意味が違います。

ふたつめ

そもそも珍しい。同じデータで、果樹農家のうち手元に1000万〜1500万円残っている層は全体の6.5%。2000万超はさらにその上です。「ざら」ではありません。JAの人は平均ではなく、産地で実際に見ている一番上の人の姿を語っている。それでも嘘ではない、というのが正確なところです(なお、このデータはきちんと帳簿をつけている農家が対象なので、経営意識の高い人に偏っています。全体の平均より高めに出る点は割り引いて読む必要があります。)

商売として見ると、かなりおいしい

ここからがビジネスとして面白いよ。

売上4600万円、働く人は数人、売上の4割が残る。

これを「農業」ではなく「小さな商売」として眺めると、相当に優秀です。

飲食店や小売店は、うまくいっても売上の数%から1割残ればいいほうと言われる世界なので、4割というのは桁が違う。

なぜそうなるのかというと小さな商売をつぶす三大要因が、ミカン農家には薄いのです。

家賃がない

 畑は先祖から引き継いだ自分の土地であることが多く、同じ規模の果樹農家が払っている地代は年32万円ほど。街でカフェを開けば、利益が出る前に毎月の家賃が容赦なく引かれていきます。あの消耗がない。

集客費用がない

JAに出せば、売り先も代金の回収も確定しています。広告費ゼロ、営業担当ゼロ。これをネット通販で自力でやろうとすると、広告費と送料と問い合わせ対応で利益が一桁まで溶けます。ただしこれは、値段を自分で決める権利をJAに預けた見返りでもあるので、タダではありません。

真似されにくい

Jこれが一番大きい。苗木を植えてから実がなり始めるまで5年、たくさん採れるようになるまで10年かかります(農水省の説明より)。つまり「儲かるらしい」と気づいて今日から始めても、追いつくのは10年後。儲かる商売を見つけると半年で competitors が群がるネットビジネスとは真逆です。高い利益率が高いまま守られている理由は、味でもブランドでもなく、この時間差にあります。

もちろん弱点もあります。

売上を10倍にしたければ畑も人手も10倍必要で、ラクに規模を大きくはできない。

しかも商品は天候次第で勝手に増えたり減ったりするうえ、腐る。

令和6年産のミカンは高温で収穫量が前年より約18%減り、翌年は17%増に戻りました。この振れ幅を毎年引き受ける商売です。これは結構しんどいですね。

本当にすごいのは「みんなでブランドを作った」こと

商売の話として、もっと学ぶべきところ、部分はここのポイントだと思っています。

2001年10月、北原悦雄さん・セイ子さん夫妻が、自分の畑のミカンの木の中に、一本だけ早く色づいて甘い枝を見つけました。5万本に1本と言われる突然変異です。

普通なら独り占めしますよね(僕なら誰にも言いません)

でも夫妻は、その苗木を全国の産地に開放し、JAと福岡県が試験を重ねて2009年に新品種「北原早生」として登録し、いまでは9県に広がっています。

そのうえで産地は、栽培方法を全員で統一し、畑を登録制にして、「糖度12度以上・酸っぱさは1.0%以下」という厳しい合格ラインを設けました。

これを満たしたものだけが県統一ブランド「黒箱」として出荷される。いまでは、その時期に出回るミカンの中で単価日本一とされています。

要するにこれは、小さな農家が一軒では絶対に払えないブランド作りの費用を、246人で割り勘にした話です。

しかも共同ブランドが崩れる最大の原因である「仲間の手抜き」を、合格ラインと畑の登録制で質の担保も完璧でした。

もうひとつ好きなエピソードがあります。この産地の畑は、木と木の間に広い通路が取ってあります。

「そこにも木を植えれば収穫が増えるのでは」と尋ねた県議に、生産者はこう答えたそうです。運搬車を通して作業をラクにし、次の世代が続けられる畑にするためだ、と。

目先の売上を捨てて、働きやすさに投資している。小さな商売で一番難しい判断を、産地ぐるみで25年続けてきたわけです。

ちなみに全国のミカン畑の面積は、平成28年の4万3800haから令和7年の3万5600haまで減り続けています。縮んでいく市場の中で単価日本一を取った、というのが正しい見方になりますね。

おわりっ。

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