ビジネスモデル解剖

【王者Microsoftとの共存術】HENNGE Oneが国内シェア1位を独走する「逆転の戦略」

【王者Microsoftとの共存術】HENNGE Oneが国内シェア1位を独走する「逆転の戦略」
ども、tempaです。
tepma

今の日本のビジネスシーンにおいて、Microsoft 365を導入していない大企業を探す方が難しいでしょう。

Excel、Word、Teams、そして認証基盤であるMicrosoft Entra ID。これらはもはや空気や水のような存在です。

しかし、そんな「王者の庭」で、ある日本企業が4年連続シェア1位という驚異的な記録を叩き出し続けています。

それが、株式会社HENNGE(ヘンゲ)です。彼らが提供する「HENNGE One」は、クラウドセキュリティの分野で、本家Microsoftを差し置いて多くの企業に選ばれ続けています。

普通、世界一の巨人と真っ向からぶつかれば、資本力と開発力の差で粉砕されるのがオチです。

しかしHENNGEは、ある「逆転の発想」でその壁を乗り越えました。

今回の記事では、HENNGEがどのようにして巨人と共存し、かつ圧倒的な利益を上げているのか。そのビジネスモデルを解剖し、私たちが副業や起業で勝ち残るための具体的なヒントを探っていきます。

この記事をざっくり

  • 最強の敵であるMicrosoftを「補う」存在になることで、敵対せずに市場を独占。
  • 自社で頑張って営業するのではなく、すでに客を持っている大手通信会社に売ってもらう。
  • 高度な最新技術を、日本のオジサンたちでも使える「超簡単な形」に変換して提供する。

 

Microsoftは「敵」ではなく「土台」であるという逆転の発想

多くの起業家は、既存の大きなサービスを見ると「あれを超えるものを作ろう」と考えてしまいます。しかし、HENNGEの戦略はその真逆です。彼らは、Microsoftという巨大なインフラを「前提」とした上で、その上に薄く、しかし欠かせない「便利な皮」を被せる戦略をとりました。

グローバル基準が切り捨てる「日本の現場」を拾う

Microsoftの製品は、全世界で使われることを想定しているため、良くも悪くも「標準的」です。一方で、日本の企業には、独自のセキュリティルールや、独特の組織構造が存在します。

例えば、デバイス制限。Microsoftの機能を使って「会社が許可したスマホからしかアクセスさせない」という設定を行おうとすると、非常に複雑なライセンス(Intune等)が必要になり、設定の難易度も跳ね上がります。HENNGEはここに目をつけました。

HENNGE Oneを導入すれば、ITの専門知識がない担当者でも、管理画面から数クリックで「許可された端末のみアクセス可」という設定が完了します。Microsoftが「できるけれど難しいこと」を、「誰でも簡単にできること」に翻訳したのです。この「簡便さ」への課金こそが、HENNGEの収益の源泉です。

独自の進化を遂げた「脱PPAP」機能の衝撃

かつての日本で当たり前だった、パスワード付きZIPファイルを送る習慣(PPAP)。世界的なセキュリティ基準からは「意味がない」と一蹴されるこの問題に対し、HENNGEは真っ向から解決策を提示しました。

彼らは、ユーザーが今まで通りメールを送るだけで、裏側で勝手にファイルをクラウドストレージに保存し、相手には安全なダウンロードURLを通知する機能を実装しました。これはMicrosoftがわざわざ日本のためだけに開発することはない、極めてローカルな悩みです。

「世界標準はこうだ」と正論を吐くのではなく、「あなたの今の困りごとは、こうすれば解決しますよ」と寄り添う。この姿勢こそが、グローバル巨人がどれだけ進化してもHENNGEが選ばれ続ける理由です。

自分の手で売らない。他人の力を最大化する「レバレッジ」の極意

ビジネスにおいて最もエネルギーを消費するのは、集客と営業です。しかし、HENNGEの決算資料を見ると、驚くべき数字が並んでいます。なんと、売上の約95%がパートナー(代理店)経由なのです。

通信キャリアの「ついで買い」を狙う巧妙な設計

HENNGEは、自分たちで1社ずつ営業に回るのをやめました。代わりに、KDDIやソフトバンク、NTTドコモといった大手通信キャリアと強力なタッグを組んでいます。

企業が法人用スマホを契約したり、Microsoft 365を導入したりする際、キャリアの営業マンはこう言います。

「セキュリティを強化するために、HENNGE Oneもセットでいかがですか? 請求も通信費と一緒にまとめられますよ」。

顧客からすれば、信頼している通信会社からの提案であり、支払いも一本化できるため、断る理由がほとんどありません。HENNGEは、大手キャリアが持つ「既存の顧客網」と「信頼」という、喉から手が出るほど欲しい資産を、手数料を払うことで借りているのです。

低い解約率が生み出す「無敵のキャッシュフロー」

営業を外部に任せることで、HENNGEは製品開発と「カスタマーサクセス(顧客を辞めさせない仕組み)」に全力を注げます。その結果、月次解約率は0.33%という驚異的な低さを維持しています。

ここで、SaaSビジネスの健全性を示すユニットエコノミクスの考え方を見てみましょう。

ビジネスの成功は、以下の式で表されるLTV(顧客生涯価値)が、CAC(顧客獲得コスト)を大幅に上回るかどうかにかかっています。

$$LTV = \frac{平均顧客単価 \times 粗利率}{チャーンレート(解約率)}$$

HENNGEの場合、分母である解約率が極めて低いため、一度獲得した顧客がもたらす利益は非常に大きくなります。計算上、平均的な顧客は約25年以上も契約を継続してくれることになります。

$$継続期間 = \frac{1}{0.0033} \approx 303 ヶ月$$

この「将来にわたって入ってくることが確定している収益」があるからこそ、HENNGEは強気な投資を続け、さらに製品を磨き上げることができるのです。

隙間を埋める「翻訳者」になれ

さて、このHENNGEの成功事例から、私たちが明日から実践できることは何でしょうか。30代の会社員が自分のビジネスを立ち上げる際、いきなり「新しいプラットフォーム」を作る必要はありません。

1. 「大手ツール × 専門業界」の掛け算を狙う

あなたが普段使っているSalesforce、Slack、Zoom、ChatGPTなどの大手ツール。これらは素晴らしいですが、特定の業界の人にとっては「使いこなしにくい」ものです。

例えば、「建設業界向けのChatGPT活用設定・運用代行」や「士業のためのNotion導入サポート」など、大手が提供するインフラと、特定の現場の不便を繋ぐ「橋渡し」の役割を考えてみてください。

これはまさに、Microsoftと日本企業の間に立ったHENNGEと同じ構造です。

2. 「集客」を自分で行わない

副業で一番のハードルになるのは集客です。HENNGEが通信キャリアに販売を任せたように、あなたも「既にターゲットを抱えている人」と組むべきです。

もしあなたがデザインが得意なら、直接客を探すのではなく、案件が山ほど舞い込んでいるコンサルタントやディレクターの「専属パートナー」を目指してください。彼らにマージンを渡してでも、営業を完全に代行してもらう。自分の時間を「営業」ではなく「価値の創出(制作)」に集中させることで、ビジネスの質は飛躍的に高まります。

3. 「やめる理由がない」状態を初期から設計する

単発の「ロゴ作成」や「記事執筆」は、終われば収益も止まります。そうではなく、相手の業務フローの一部を預かる仕組みを考えましょう。

  • データの定期的なメンテナンス

  • 月次の運用レポート作成

  • 独自のワークフローに基づいたサポート

これらをセットにすることで、クライアントは「あなたに頼み続けるのが最も効率が良い」という状態になります。0.33%の解約率を目指すには、あなたの不在が相手にとっての「不便」になるような関係性を築くことが重要です。

まとめ

HENNGE Oneの成功は、決して奇跡ではありません。

巨人の弱点を見極め、日本の現場に徹底的に寄り添い、そして他人の力を賢く借りる。これらはすべて、個人のビジネスにおいても再現可能な「勝てるロジック」です。

私たちが戦うべき相手は、世界一の企業ではありません。目の前にいる同僚や、取引先がこぼしている「ちょっとした面倒くさい」の中に、100億円のビジネスの種が眠っています。

まずは、あなたの周りにある「巨人の不親切」を一つ、見つけてみることから始めてください。

おわりっ。

 

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